「貝の穴に河童の居る事」 泉 鏡花


河童が人間に復讐する話なのだが、「復讐」という深刻さはあまりなく、ユーモラスな作品である。人外のものがいろいろ登場する。

「口へ出して言わぬばかり、人間も、赤沼の三郎もかわりはないでしゅ。翁様――処ででしゅ、この吸盤すいつき用意の水掻みずかきで、お尻をそっでようものと……」
「ああ、約束は免れぬ。和郎たちは、一族一門、代々それがために皆怪我をするのじゃよ。」
「違うでしゅ、それでした怪我ならば、自業自得で怨恨うらみはないでしゅ。……

現代においても「エロ河童」などと言われるように、河童にはそのようなイメージがあるのだろう、この作品に登場する三郎もかなりの好色である。「でしゅ」という喋り方が特徴的というか何というか、憎めない。

復讐に使う魚の描写に関して作者が顔を出す部分があるのだが、これも面白い。

私は話の中のこのうおを写出すのに、出来ることなら小さな鯨と言いたかった。大鮪おおまぐろか、さめふかでないと、ちょっとその巨大おおきさとすさまじさが、真に迫らない気がする。

あの魚は、かさも、重さも、破れた釣鐘ほどあって、のう、手頃には参らぬ。」
 と云った。神に使うる翁の、この譬喩たとえことばを聞かれよ。筆者は、大石投魚をあらわすのに苦心した。が、こんな適切な形容は、凡慮には及ばなかった。


「貝の穴に河童の居る事」
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