「鏡地獄」 江戸川 乱歩


幼い時分から、鏡やレンズや虫めがねなどが好きだった男は、次第にのめり込み、独自の研究に没頭していく。彼は学校を卒業すると、庭に実験室を作り、一日中そこで過ごすようになった。そこには、覗きの望遠鏡やら、鏡張りの部屋やら、「レンズ狂」の彼がこしらえた様々の装置があった。

いよいよ「レンズ狂」がひどくなったある日、彼は内部が鏡で出来た玉のような装置の中で発狂する。玉は笑い声をさせて転げ回り、「私」がそれを壊すと、中にはすっかり変わり果てた彼の姿があった。

「レンズ狂」というニッチな着眼点が非常に面白い作品。映像化を見てみたい気もするし、見ない方がいいような気もする。やはり乱歩の作品は探偵ものよりも奇譚ものの方が好きだ。

――それは、ひょっとしたら、われわれには、夢想することも許されぬ、恐怖と戦慄せんりつ人外境にんがいきょうではなかったのでしょうか。世にも恐るべき悪魔の世界ではなかったのでしょうか。そこには彼の姿が彼としては映らないで、もっと別のもの、それがどんな形相を示したかは想像のほかですけれども、ともかく、人間を発狂させないではおかぬほどの、あるものが、彼の限界、彼の宇宙を覆いつくして映し出されたのではありますまいか。

――彼はその後、狂ったままこの世を去ってしまいましたので、事の真相を確かむべきよすがとてもありませんが、でも、少なくとも私だけは、彼は鏡の玉の内部を冒したばっかりに、ついにその身を亡ぼしたのだという想像を、今に至るまでも捨て兼ねているのであります。

「鏡地獄」
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