「てのひら自伝」 坂口 安吾


私は私の意志によって生れてきたわけではないので、父を選ぶことも、母を選ぶこともできなかった。
 そういう限定は人間の一生につきまとっていることで、人間は仕方なしに何か一つずつ選ぶけれども、生活の地盤というものは人間の意志とは関係がない。
 人間は生れた時から人のふったサイコロで出てきた天来のかけの子供なのだから、我々の文化が自由意志などと大声シッタしてみても砂上楼閣、化けの皮がはげ、知識のあげくは不自由へかけ戻る。恋愛結婚を進歩的だといって、見合い結婚をバカにするが、恋愛などタカの知れたものだということがいずれ看破せられると、人まかせの見合い結婚、ここにはかけのスリルがあって、百年先の文化人のオモチャになるかも知れない。


自伝といっても短いもので、「風と光と二十の私と」「二十一」「二十七歳」のような感じではなく、いくつかのエピソードが少しだけ語られるのだが、これだけでもずいぶん面白い。

「てのひら自伝 ――わが略歴――」
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