「私の探偵小説」 坂口 安吾


探偵小説の愛好者である安吾が、探偵小説とはどうあるべきかを説く。

専門の知識を必要としなければ謎の解けないような作品は上等品とは思われないので、たとえばある毒薬の特別の性質が鍵である場合には、その特質をちゃんと与えておいて、それでも尚、読者と智恵を競い得るだけの用意がなければならぬと考える。

謎は殺し方の複雑さなどにあるのじゃなくて、アリバイにある。又、犯人でありうる多様な人物を組み合せて、そのいずれもが疑惑を晴らし得ないような条件を設定するというようなところに主として手腕を要するのじゃないかと思う。

そして愈 解決となった際、特に殺人の動機が読者を納得せしめなければ、作品は落第だ。又、その動機も隠されていたのでは話の外で、あらかじめ、読者に与えられているものでなければならない。

安吾は探偵小説愛好者の仲間と犯人当てのゲームを行う(最も成績優秀だったのは平野謙氏で、安吾が犯人を当てたのは2回だけだったそうだ)が、日本の作家の作品には、このゲームに適する作品が全然ないのだそうである。

私自身もそのうち一つだけ探偵小説を書くつもりで、その節は大いに愛好者諸氏とゲームを戦わすつもりである。戦争中考えていたので、八人も人が死ぬので、長くなるので却々時間がなくて書きだす機会がない。そして私はあいにくこの一つだけしかゲームの種を持ち合していない。その節は私の方から読者に賞品を賭けましょう。

この探偵小説というのがおそらく「不連続殺人事件」であろう。わたしは平素探偵小説を読む際、疑りをなるべく持たぬようにして読んでいる。推理はしないのである。してやられるのが面白いからである。筋が読めてしまうと、どうも、面白くない。しかし今回はこのゲームに、ひとつ乗ってみようと思う。勝てる気はしないが、それもまた一興であろう。

「私の探偵小説」
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